★mission5:この手を防衛せよ★

さっきまでの狼はセウルの一撃によりダメージが大きそうだ。
一回り小さくなり、停止した狼はまもなく消えそうに見えなくもない。
これでこの戦いは終わりなのだろうか?
「力を一時的に抑えただけだ。
 攻めの一手が足りない。だが俺の能力だけでは……。」
やっつけたのかという徹の質問にセウルは横に首を振り答える。
が・・・ふと言葉が止まった。

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「あぁ!そうだ!」
セウルは二人を見た。
「君達の力を使えばいいんだ。」
「「力…?」」
セウルの言葉の意味が分からず二人は首をかしげる。
「そう!君達の持っている能力さ。」
セウルはそう言って真剣な目を二人に向ける。
「俺は君達の能力波によってここに来た。
 あいつがここへきたのも多分能力派によってだ。
 君達の能力で俺を手伝ってくれ。」
さぁ!とでも言うように嬉しそうに笑うセウル。
勝機が見えたと顔が物語る。・・・だが、一方
「おい、お前ちょっと待て!
 よくわかんない話に巻き込むなよ。
 俺も春歌もそんな変な物体倒す能力なんてもっていないぞ!」
「あの・・・。私も、わけがわからないです。」
頼まれた兄弟はただ混乱しながらセウルに言う。
「そんなはずは……。」
セウルは予想していなかった二人の言葉に顔を曇らせた。
だが、しばらく考えた後ふと声をあげた。
「もしかしたら…!」
セウルはそう言って二人を見て、真剣なまなざしで言葉を伝える。
「ひとつ君達にかけてみるよ……。」
兄弟はわけがわからずじまいで、
ただ覚悟を決めたように自分達を見るセウルを見た。
「俺の手に自分の手を重ねてくれ。」
セウルはそう兄弟に言う。
「え……?」
突拍子もない言葉に思考が止まる二人。
一方セウルはさぁと言うように右手を差し出す。
「もしかしたらただ君達は巻き込まれたのかもしれない、
 だけど今はこれにしかかけられるものがないんだ!」
「どういう事だ。」
「詳しい話は後!とにかくっ!」
徹のことばにセウルは答え自分の右手を再度二人に差し出す。戸惑う二人。
自分達の手にいったいなにがあるというのだろう。
そんな二人にセウルはせかすように言う。
「早く!もうすぐあいつを縛る時間が切れる!」

それと同時だった。

  バキ!

光の周りでそう音がし、そして光はゆっくりと再び形をかえる。
さっきの狼の姿へと。
「まずい!はやく!」
セウルはわけがわからなくなっている二人を促す。
「このままでは全員ただじゃすまない!」

「……よし!やるだけやろう。おまえにかけてやるよ。」
ついに覚悟を決めて徹はセウルの右手を取った。
と、徹の周りから無数の光が現れセウルへと集まっていく。
「なっ!」
「予想的中か。」
驚き、戸惑っている二人に向かってセウルはにっと笑うと狼の方を見る。
そして、自分の左手に持つ銃を構える。
「テレス=ポワーズ」
彼がそう唱えるとセウルに集まっていった光は銃へと吸収される。
そして、ひと吹きの風が狼へと襲い掛かった。
「どうなっているんだ……?」
「風力波か……。」
驚く徹の横でセウルはそう呟くと、再び狼へと引き金を引いた。
さっきの爽やかな風とは違い、
かまいたちのような鋭い風がブーメランのように狼へと襲い掛かる。
交わそうとする狼。だが、
  ザシュ!
その攻撃を交わしきれなく、大きなダメージを食らう。
一瞬、狼の形がゆらめく。
「私も、手伝います。」
春歌はそう言うと、今度は春歌がセウルの手を取る。
と、春歌の周りにも無数の光が現れる。
「こっちも的中か…。テレス=ポワーズ」
再びその呪文をセウルが唱えるとセウルに集まっていった光は銃へと吸収され、
今度はセウルを暖かく包んだ。
「これは…。ヒーリング…。」
セウルは少し驚くと、横目で春歌を見る。
少し不安そうな顔をしている春歌にセウルは笑いながらありがとうと言った。
「よっし、こっちの魔力も体力も完全回復したし、ラストと行くか!」
元気にセウルは言うと。立ち上がり、狼を見た。
襲い掛かる狼に対しセウルはにやりと笑うと引き金を引く。

「セル=ラ=サルト」

その瞬間、巨大な光が周囲を包んだ。
そして、その光が消えると同時に
セウルの引き金の先に二人が見たのはもう狼ではなかった。
狼の形態を維持できなくなったらしい光は姿を崩し、
だんだんと小さくなっていくのだ。
そして、光にセウルはすかさずまた引き金を引いた。
「ジョウ=セ=セウル!」
彼がそう不思議な呪文を言うと、銃口からでた緑色の光につつまれた。
そして、光が消えた頃にはもう狼の姿はなかった。


「よっしゃぁ!捕獲終了!」
「はぁ???」
「これは…?」

嬉しそうにガッツポーズをするセウルの横で、
徹と春歌はこの不思議な出来事ににそうとしか声がでなかった。
ただ、この出来事が現実な事を、
壊れたベランダと倒れている少年が物語っていた。




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