第1話:始まりの冒険(後編)

「よし。これで準備はいいか…そろそろいくか。」
夜。エンジは準備万端の格好で窓からこっそりと抜け出す。
1人で静まった町を抜け、洞窟の入り口へと向かった。
「やっぱり来ると思った。」
入り口へと続く道でそう待ち構えていた人影はエンジに言う。
「ロア…。」
「本当に行く気なのか?何もないんだぞ。」
エンジを心配しロアはエンジにそう言葉をかける。
「もちろんさ。何もないとしても、俺は自分で確かめに行きたいんだ。」
「夜の洞窟は危険だぞ。」
「だから、銃持ってきたんだ。いつも練習しているんだ。何かあったら使えるよ。」
エンジは笑いながら自作の銃を2丁見せる。
「…俺も一緒に行く…って言ったら怒るんだろうな?」
「わかっているじゃん親友。今回は俺、1人でやってみたいんだ。俺の最初の冒険だから。」
「エンジは頭もいいし、運動神経だっていい。探究心だってあるし、
 トレジャーハンター以外にも選択肢はあるだろう?」
「だとしても、俺は冒険がしたいんだ。」
「・・・はぁ。わかった。」
真剣な表情で見つめるエンジにため息をつくとロアは道をあけた。
「洞窟見たらすぐ帰れよ。あと、危険だと思ったら引き返す事。」
「わかっているって。」
ロアの心配して言う言葉にエンジは笑いながら答える。
「あ、これもっていけよ。」
ロアはそう言って用意していた袋とお守りを渡す。
「ちょっとした怪我ならこれで治るからさ。」
それはロアが作った傷薬だった。
「ありがとな。んじゃ、行って来るな!」
「おう。気をつけてな。」
袋をポケットの中に入れ、エンジはそう言ってロアとわかれた。

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「本当、近い所にある洞窟だよな。」
歩いて数分もたっていないところにその洞窟はあった。
「なつかしいな。小さい頃はここであそんだっけ。」
エンジはエイロの洞窟の前で懐かしそうにつぶやいた。幼い頃の記憶がよぎる。
「…て、おもいでに浸ってるし。よし!入ってみるか。」
エンジは我に返り、いきおいよく洞窟の中へと足を踏み入れた
小さい頃は昼間に冒険ごっこをして良く遊んだ洞窟の中を進んでいく。
蝙蝠や夜行性モンスターの動く音がする。どれどれと光をつけるとざわめきがひどくなる。
「わわっ!」
突然のざわめきに慌てて電気を消して奥へ奥へとゆっくり進んでいく。
「大丈夫だ。小さい頃からかわってないし、なくても分かるはずだ。」
自分に言い聞かせ、目印をつけながらエンジはゆっくりと進んでいく。
真っ暗な道が続いていく。と、エンジは思わず信じられない光景を見つける。
「な、なんだ…?」
どこからか光が漏れているのだ。
「まさか、トレジャーハンター???」
ベニスの言葉が本当なのかと驚きながらエンジは光に誘われる様に進んでいく。
一心不乱に進んでいくエンジがたどり着いたのは、光り輝く開けた場所だった。
「こ、こんなところあったっけ?」
思わずつぶやく。このような場所を見つけた記憶は幼い頃はない。
「ん?…あれは?」
明るい開けた場所の中で一層光り輝くものがエンジの目の中に入る。
「この光…。俺、見たことあるきが…。」
光に吸い寄せられる様にエンジは手を伸ばす。
その時だった。

グァァァ!

「わぁぁ!」
水の中から大きな魚の様に見えるモンスターが出てきた。
赤く目を光らせたそのモンスターはエンジめがけて襲い掛かってくる。
「わぁっ!」
パーン!パーン!
エンジは腰の銃の引き金を引く。だが・・・。
「き、きいていない…。」
硬い鱗のそのモンスターはエンジの攻撃をはね返す。
エンジの頭にやばいという言葉がよぎる。
「くっ!」
相手はかなりの強いモンスター。とりあえず、今は逃げるしかない。
エンジはただ引き金を引きつつ移動する。
容赦ない攻撃に慌ててロアからもらった薬草で傷を回復させる。
だが、消耗品の薬草はいつかなくなる。
ロアだって、エンジだって、そしてベニスだって
この洞窟にこんなモンスターが住み着いているとは思いもしなかったのだ。
「くそっ…。このまま、あいつに傷もつけられないのか…。」
薬草もそこをつき、エンジは悔しそうにつぶやく。
一瞬もうろうとする意識。もうだめかもしれないと悟った。その時だ。
『手をとれ…。お前は・・』
頭の中をその様な言葉が出てくる。
(あぁ、そういえば今朝もこんな夢見たかもな…。)
その言葉にエンジはふと今日見た不思議な夢を思い出した。
(そう、あの時もそんな言葉が出てきて、そしてこんな光が辺りを包んだんだ…。)
エンジはもうろうとした意識の中その様なことを考えながら光のさす方へ手をのばした。
それは、さっき見つけた光り輝く謎のものだった。
そして、それを手に取った瞬間、エンジは光に包まれた。
「うわぁぁぁ!!!」
光が消え、目をつぶったエンジが気がついた時、
エンジの手には不思議な形をした銃が握られていた。
「こ、これがさっきの光?」
エンジは驚く様に銃を見る。なんだか底知れない力が自分に流れてくるのを感じる。

グァァァァ!!

そんなエンジにお構い無しにモンスターはエンジに再び襲い掛かる。
「げっ!」
さっきどうやって回避しようかエンジは慌てる。
と、さっきと同じ声がエンジの頭に語りかける。
『我を使え』
「しょ、正直わけわからないけど、了解っ!」
エンジはそう声に答えると銃口をモンスターに向ける。
「ゆけーっ!」
引き金を引くエンジ。と、その銃口から出てきたのは電流をまとった弾丸。
「え・・・!?」
そして、その弾丸は生きているようにモンスターに向かっていき、

グャァァァァッァ

モンスターは倒れていった。
「ふ、ふぅ・・・。助かった…。」
エンジはやれやれと言うように腰を下ろす。
気が緩んだのか、段々と力が抜けていく気がする。
「に、しても…やべぇ…。あ、あるけな…。」
力が抜け意識が朦朧としていく。


消えゆく意識の中、エンジは薄っすらと1人の男の姿を見た。
真紅の髪の毛を持つその男はエンジを見てつぶやいた。
「魔導具はついに持ち主を見つけたか…。」