●セリフ8『ゲームオーバー』●

「別れよう」
彼はそう私に言った。

『終わりの瞬間』<3years ago>
 高瀬友里→森博之


「お前の事好きだけど、重い。一緒にはいれない。お前を好きなのはやめる。」
彼の言葉がまた頭によみがえる。どう言う事なのか説明してほしいとか、
そんなのは絶対に嫌だとか、言いたいことなんて山ほどあるはずだった。
だけど、情けないことに私の言葉から出てきたのは声にもならない声。
そして、彼の胸に今にも飛び込みたい私の身体は、本人の意思を無視して勝手に頷いた。
「わかった。今までありがとう。次に付き合う人とはもっと幸せになってね。」
 私は何を言っているんだ!馬鹿だ。馬鹿でしかない。絶対後悔する。
新しい彼女なんかできないでほしいなんて思っている自分。
 なのに、私の行動はただの物分りのいい女の子だった。
私とはちがう別の女の子が取るだろう態度。何で?そうじゃないと嫌われるから?
『好かれたい』そういう想いが私を動かしていた。
だから、彼が私以外の子と会っていることも我慢していた。
浮気しているんじゃないかって思った事もあった。でも、我慢した。
結局は戻ってくるからって。だから、我慢しようって。
だって他の女の子なんかより私が本命だって知っていたし、確信があったから。
だから、私を思って友達が彼の悪口を言われたら怒ったし、
ささいな彼のことを話すだけで幸せになった。あえない日も耐えれた。
…でも、それが彼には重いの?
「じゃぁ、私帰るね。」
にこやかに笑う私。馬鹿だ。今にも泣きたいはずなのに。聞きたい事があるのに。
「そっか。じゃぁね」
いつものように言う彼。なんでもないように。
「うん。」
 いつものように言う私。でも、もうこの風景はいつもじゃなくなる。
彼の部屋で一緒に過ごした日々も、お互いの温もりも、声も、笑顔も。
日常の一部だった私たちの風景は今この瞬間に終わる。
これはいったいどういうことなのだろう。
簡単だ。結局私は見栄を捨てることが出来なかったんだ。
自分が可愛かったんだ。最後にあの人に与える印象を「惨めな女」ではなく、
「物分りのいい可愛い女」にしたかった。かわいそうなヒロインを本能のままに演じていたんだ。
「ゲームオーバー・・・か。」
彼の家の玄関を出て、2階の彼の部屋を見てつぶやく。

恋愛とは男女の駆け引き。ゲームのようなもの。
どれだけ本気でも結局のところ愛とか言うには私達は若すぎるんだろう。
だから、私の心は「私」でなくて「女の子」を演じたんだ。

…大丈夫、また新しいゲームを始めればいいから。
それまではちょっと時間がかかるけど。

その数日後、
カズから彼が転校する事を知らされるのはまた別の話。


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ヒロと友里高校2年生のお話。
ゲームオーバーと聞いて失恋のイメージ。でも、該当者がいない。
…あ、そういえばこの人たちモトカレ・モトカノだわと。
自分の気持ちをだせなかった自分。
結構、後悔がのこります。
好き。でも、それを出せるほど大人じゃなかったんだ。

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