●セリフ29『嘘でもいいの』●

受験の帰り道、
駅前で怪しいおっさんに絡まれている女の子。
それを助けようと思ったのはただの気まぐれだったんだ。

『きみとぼくと』<2years ago>
 森博之+中川加奈


「おっさん、それ本当かよ?」
胡散臭い話をするおっさんに後ろから声をかける。
「な、なんだね君。本当に決まっているだろ。」
慌てて言うおっさん。
「ふ〜ん。じゃぁこの足元のこれは?」
おっさんが女の子と話をする為においた紙袋の中に入っている
それを僕は指差す。
それは、ビデオカメラ。現在録画中。
…角度からして明らかに盗撮用。
「こ、これは・・・!!!!!」
「あやしいよねぇ。へんなものとってない?
 あ。そこにおまわりさんいる。おまわりさ…。」
全部いい終わるまでもなく、男は慌てて去っていく。
うそだとばれずよかった。
まぁ、周囲の人がなにごとかとこっちをじろじろ見てたし、
どっちみちあのおっさんは逃げるしかないだろうとは思ったけど。
「あの…。ありがとうございました。」
さっきまでうさんくさいおっさんの話を聞いていた女の子がそう声をかけてきた。
「いえ。なんかはたから見てうさんくさかったし。」
そう僕が言いながら見る先にはすごく可愛く笑う女の子がいた。

時間があれば軽く話さない?
いつものノリでかるく誘った俺の言葉に彼女は笑顔で頷き、
今僕は、駅近くのファーストフードショップにいる。
彼女は、中川加奈ちゃん。
僕と同じ青葉大学を受験した3年生。
なんと、興味がある授業があるからとA県から来たらしい。
まぁ、最近話題になっている学校で他県からの受験者もいるのは知っていたけど、
意外と遠いところでびっくりした。
駅近くのホテルに受験生パックで宿泊するので時間はたっぷりあるらしい。
ちなみに僕も、メールで車で迎えに来る女友達から
遅れると来たので、別に急ぐ必要もない。

「本当にありがとう。助かりました。」
「全く、あんな胡散臭い話、鵜呑みにしなくていいじゃん。『会社が極秘に開発』とか
 『今、モニターを探していて』とか…。無視すればよかったのに。」
「だって、本当かもしれないし・・・。」
「でも、8割方うそでしょ。格好からして怪しかったし、
 実際嘘だし、あぁいう人の言う事は疑ってかからな…。」
「嘘でもいいの。」
加奈ちゃんは僕の呆れて言う言葉に微笑んで答えた。
「だって、一度ちゃんと信じないと嘘かどうかもわからないじゃない。」
揺るがない意思と共に向けられた笑顔はすごくまぶしくて、素直で、
僕の心に新しい何かが生まれた。


「ねぇ。メアドきいていい?」
別れ際、思わずいつも言わないようなベタな言葉がでてきた。
彼女は一瞬驚いた後笑って頷いた。


*********comment*******
ずっとかきたかったヒロカナエピソード。
二人の出会い編です。
人を素直に信じる事をしないヒロ。
まぶしい笑顔で笑う加奈。
ここから二人の恋が始まる。


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