●セリフ11『送っていってよね』●

「ゲッ・・・。」 「え・・・。」
お互いにいやそうな声が漏れる。

『新しい一歩へ』<1years ago.>
 高瀬友里+森博之


どもども、高瀬友里です。
本日は、所属サークルドライブの活動へ。
情報誌に載せるため、数名で近所の映画館へ行って、
上映スケジュールや、お勧め作品を聴く。
『まず、近いんだったら実際にいく』というのが
うちの方針らしく、数名でこの、自転車で10分、徒歩30分未満の映画館へと足を運ぶ。
・・・うん、映画館の担当者のお姉さん優しいし、好きな活動の一つで進んで行くんだけど…
よりによって、こいつとですか?
「高瀬とヒロ、どうかした?」
佐川さんに不思議そうに聞かれ、私とヒロ君は、いいえと首を横に振る。
ヒロ君こと森博之。私の元彼であり、昔、ちょっとしたトラウマの原因だった人。
そして、私の親友、加奈の彼氏である。
加奈がいるからと最近入部して、同じサークルになった。
・・・別に苦手というわけでもないのだが、とっさの反応で苦手意識が出る。
「じゃぁ、俺、悪いけど先帰るから写真よろしくな。」
明日教授に提出のチームレポートを仕上げに友人宅へ行くため、
佐川さんは先に映画館を出てしまった。
…他の先輩も今日は来ていないし、他の1年もいないので2人。
・・・き、気まずい。
「じゃぁ、撮るか。」
「うん。」
そう言葉を交わし、サークルのデジカメで写真を数枚撮影するヒロ君。
横顔を見ながら思う。苦手といいつつ心の奥では、こいつに感謝しているんだろうなって。
・・・私にとって初めての感情を、今まで知らない私を教えてくれたし、
何であれ幸せな時間をくれたこの人に少し感謝しているんだろうって。
・・・・・・まぁ、できれば昔みたいに色々とバカ話できる関係に戻りたいかもな。
といっても、ゆっくり2人で話す機会もないし・・・。
はぁ。どこか苦手意識持って構えてしまう私よ・・・そう思うなら少しは成長しろ。
「なんだよ?」
視線に気づいたらしく、ヒロ君は私に怪訝な顔をする。
にらまれたとでも思っているのかもしれない。
「別に・・・。2人だけなんてかなり久々だなと。」
「確かに。」
そんな、淡々とした会話をしながらやることを終え、映画館のお姉さんに挨拶をする。
時刻はもう空が暗い。
「もうこんな時間か。」
ふと見てぼやくヒロ君。
「だね。」
そう横で言いながらふと、あることを思いついた。
私とこいつの距離を少しだけ元に戻す方法を。
「ね、送っていってよ。」
昔の様ににかっと笑いつつ、あいつに言う。
女の子に優しいあいつの答えはすぐわかる。
「別にいいけど。」
いつもどこか苦手に扱われている、そんな自分に対しての私の言葉に
不思議そうに首をかしげながら、ヒロ君は頷いた。
・・・加奈ごめん。きちんと後で謝っておくので、
私の心を成長させるためにこいつを道中だけ借ります。


月明かりの下、2つの影
さぁ、歩いて帰ろう。
あのころの僕らに少しだけ近づく為に。

ちなみに、加奈に後で言ったら、
「あぁ、ヒロさんに聞いたよ〜。むしろ、友里を暗い夜道1人で帰したら許さないし。」
と言われたのは余談。・・・ヒロ君、信用されてるな。


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どうにか和解。どうにか友達へ。
このままじゃいけないって解っているから。
加奈はまだ付き合って間もないので「ヒロさん」と呼称させてます(コザイク?)

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